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「雇用、労働時間、賃金を一体で考えよ」ということで、いつけんまともな主張ではないかと読者をとまどわせる。 だが、なんのことはない、まず雇用を守るためという殺し文句で労働時間や賃金を犠牲にし、つぎに一雇用を守るという内容も既述のとおり将棋の駒よろしく労働力を「流動化」させる、あるいは契約社員化する、という種類のものであって、それは迷路的仕掛けとでもいうべき校滑きわまりない主張なのである。
まず、右のまやかしの「高賃金」論を下敷に、労働者の生活改善の方法について、賃上げによるのではなく、物価抑制にもとめるべきだと説教している。 もっともらしいこの説教にも重大なウラ(魂胆)があって、すでにふれたように「物価抑制のために」という大義をかかげ、結局のところ、労働者・国民を「規制緩和」に誘い込むことをねらっているのだ。
これをひややかにみつめる無数の労働者・国民の目の怖さにそろそろ連合幹部も気づかなくてはならないし、いやでも気づかざるをえない事態になっていることも付言しておこう。 日経連の「ベア・ゼロ」攻撃が続き、96春闘で連続4回目になる。
実は第一回目の春闘でN健日経連会長(当時)が、次のように述べていた。 「経営側がベースアップを否定していると言われるが、これは今年だけのお願いだ」(「N新聞」1993年2月2日付)。

「今年だけのお願い」というN発言が、その後の経緯からみても言い逃れにすぎなかったことは、いまや明白である。 むしろしだいに、彼らの「ベア・ゼロ」論の中身が露骨になってさえいる。
「今年だけ発言」の舌の根も乾かぬ翌年〈94年)には、N会長は「3杯のめしを2杯にしても死ぬわけではない」、「給料は上がる時もあれば、下がる時もある」などと、聞き捨てならぬ発言をしながら賃下げ論をぶつに至ったのだ。 続く95春闘でも日経連は、「これ以上、名目賃金を引き上げていったらどうなるか。
それは95年以降の日経連「労問研報告」拠点の海外移転による産業の空洞化をさらに加速させることになる」(「日経連タィムス」95年1月26日付)と一雇用問題で労働者を脅し、「賃下げ」もちらつかせながら「ベア・ゼロ」を主張した。 こうした経過をへて、96年の今春闘に向けては、M金属の「ベア廃止」提案を「時代の趨勢」(「N」95年2月9日付)と支持するなど、「ベア廃止」に傾斜した「ベア・ゼロ」を主張しつつ、次のように96年版「労問研報告」で述べている。
「今日の経済・経営状況下では、支払能力に余力があれば、まず雇用の維持を最優先し、その次に賞与・一時金に生産性向上の成果を振り向けることが望まれる」。 初任給も「この現況からすれば、据え置かざるをえない」とし、定期昇給も「ある一定の時期に全員を対象に賃金が上昇する仕組みでなく、一定資格以降は能力・業績の個別評価によって賃金が決定される運用を図るべきであろう」と、これまでのような定期昇給の廃止を主張している。
要するに、ベアと定昇に関する「報告」のポイントは、どうにでも言い逃れのできる「支払能力」でベアの可否・程度(マイナスのベアも含めて)を企業ごとにバラバラに決めること(これは「横並び春闘」を解体して「バラバラ春闘」に変えること、つまり春闘解体に直結している)、定期昇給の「定期」という文字を削除し(たんに昇給とし)、それを定期的に「年功」によってではなく、「職能」によって差別的に運用することである。 いわばこれは96年版「労問研報告」のさわりの部分であるが、すでにこれらのことは「新時代の「日本的経営崖(95年5月発表)という日経連の報告書(以下「新日本的経営」論と記す)で提起されていた。
今回の「労問研報告」もその「新日本的経営」論をベースにしている、ということだ。 したがって、ここでの検討でも「新日本的経営」論に言及する場面が出てこよう。
以下、96年版「労問研報告」を章ごとに検討する。 この章のタイトルは「内外環境の変化と日本の立場」である。
まず「世界経済の動向」を取り上げ、これをふまえて「日本は何をすべきか」を論じている。 総論的な部分だ。

まず、「20世紀最後の5年を迎えて、世界は大きく変わりつつある」として、アメリカ経済の徹底したリストラによる復興、ヨーロッパ経済のEU統合による国際競争力の向上、東アジアを中心とした(日本以外の)アジア諸国の高率の経済成長などが指摘されている。 これにひきかえ日本は大変だ(賃上げどころではない)と「報告」はいいたいのである。
その一方で、「先進諸国における失業問題の解決」や「世界経済と整合のとれた開発途上国の経済成長の持続」が、「当面する大きな課題」であるという認識を示している。 たしかに、失業の増大は資本主義体制の重大な矛盾である。
しかしそれが、各国独占的大資本のリストラを競い合う異常な行第3章95年以降の日経連「労問研報告」動から必然的にもたらされていることについては、「報告」は沈黙している。 一見わかりにくい開発途上国への心配は、それらの国々の経済が過熱しすぎて、「先進国」(の独占的大資本)にとってのおいしさが減退するのではないかという恐れから出ている。
また国際政治関連の分野では、「米ソ機軸の冷戦構造の崩壊により、国家や民族の枠を越えた紛争が国際安全保障を脅かし、国際政治経済にさまざまな影響を及ぼしつつある」と危機感を表明している。 これは、かつて「冷戦構造」論で危機感を煽っていた財界(支配層)が、手の平を返すようにいまや逆にその「崩壊」論で危機感を煽るという、ご都合主義の「論理」丸だしであるが、「国際貢献」(「自衛隊」という日本軍の海外派兵など)や日米安保「再定義」の伏線となっていることは後述のとおりである。
「報告」は、「低コスト地域(東南アジアなど)の攻勢は、日本産業に深刻な問題を提起し、また、経済発展の副次的効果として、資源・エネルギー、食料、地域環境などのさまざまな問題が発生することが危倶される」と警戒しつつ、一方で「戦後50年を経て、日本の政府も企業経営者も、本格的な国際化の中で、わが国を国際的にみて魅力のある国家に脱皮させていく努力が必要になる」という言い回しのもとに、対米従属のもとでの日本の海外進出を追求している。 この観点から、「日本は何をすべきか」ということで、次の3点が強調されている。
独占的大資本本位の経済政策が述べられている。 ポイントだけみておこう。
第一に、「現在のような経済・社会の不安定状態をいつまでも続けることは許されない」として、「国内産業間の生産性の2重構造の解消と技術力のさらなる強化」が強調されている。 ここでいう「2重構造の解消」が中小企業や農業の選別的な切り捨てであり、「技術力強化」が日本の独占的大資本の競争力強化をねらうものであることは、これまでの日経連の主張にてらしても明白である。
第2に、「適切な国際競争力ができるような体力と体制づくりが必要である」として、「国際的な秩序と協力の体制」が重要だとされている。 ここでいう「体力と体制づくり」こそ、軍国主義的な軍事力増強と憲法改悪にほかならない。

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